現時点での日本はり医学会方式-宮脇スタイル
宮脇スタイルで証・選穴・適応側を科学した後、治療の進め方ですが、①主たる変動経絡の補法×②相剋経の補瀉×③陽経の補瀉による三経三穴の少数穴本治法を基本とします。
①主たる変動経絡の補法
証に従い肝・心・脾・肺・腎の中から最も虚している経絡の生気の不足を補います。※母経は要りません。
②相剋経の補瀉
相剋経の虚実を弁え補瀉します。
- 本来剋しているはずの相剋経に邪気実が在る陰実相侮(ぶ)証は、主たる変動経絡を補した側と同側を瀉します。同側で補瀉します。
- 剋されている経に邪気実が在る陰実相乗(じょう)証は、主たる変動経絡を補した側と反対側を瀉します。適応側を左右に振り分けて補瀉します。
- 本来剋している経や剋されている経が主証と共に虚している相剋証は、主たる変動経絡を補した側と反対側を補います。適応側を左右に振り分けた重虚極補の相剋調整を行います。
陰実証は、脉状に応じた手技手法、実邪で気の変化なら①浮実に応ずる瀉法、血の変化なら②弦実に応ずる瀉法、虚性の邪で気の変化なら③塵または④枯に応ずる補中の瀉法、血の変化なら⑤堅に応ずる補中の瀉法。気血の滞りには⑥和法を施します。
相剋証は、主証と共に補います。
③陽経の補瀉
陽経の虚実を弁え補瀉します。
臨床的には陰経を整脉力豊かに補うと、主訴愁訴に関連する陽経に邪気実が浮いてきます。
実邪か虚性の邪を弁別して、実邪で気の変化なら①浮実に応ずる瀉法、血の変化なら②弦実に応ずる瀉法、虚性の邪で気の変化なら③塵または④枯に応ずる補中の瀉法、血の変化なら⑤堅に応ずる補中の瀉法を行います。
あるいは虚していれば陽経を補います。
臨床パターン
大別すると、4パターンあります。
- ①主たる変動経絡の補法×②相剋経の補瀉×③陽経の補瀉
- ①主たる変動経絡の補法×②相剋経の補瀉
- ①主たる変動経絡の補法×③陽経の補瀉
- ①主たる変動経絡の補法のみ
あくまで、虚実を弁え補瀉をするのが脉診流経絡治療ですから、虚実が整っていれば無理やり手を加える必要がありません。
主証の陰経を補ったのち、相剋経に邪があれば瀉し、虚していれば補い、平であれば飛ばします。
陽経も邪があれば瀉し、虚していれば補い、平であれば飛ばします。
ですから、三穴いる人もいるし、人によっては二穴や一穴で済む場合もあります。
虚実をよく弁え、必要に応じて補瀉してください。
そしてそれは最初の一本目、主たる変動経絡の補い如何によって変わってくるということです。
それでは比較脉診がし難い、乳幼児~未就学児の小児の場合はどのように本治法すればよいのでしょうか?
古典にそのヒントがあります。
比較脉診ができない小児に対する日はりstyleの一提案
霊枢
壽夭剛柔第六.
在内者.五藏爲陰.六府爲陽.
在外者.筋骨爲陰.皮膚爲陽.
故曰.
病在陰之陰者.刺陰之滎輸.
病在陽之陽者.刺陽之合.
病在陽之.陰者.刺陰之經.
病在陰之陽者.刺絡脉.
陰中の陰が五臓、陰中の陽が六腑、陽中の陰が筋骨、陽中の陽が皮膚で、病が陰中の陰である五臓にあれば滎火穴か兪土穴を取り、陽中の陽である皮膚にあれば合土穴を取り、陽中の陰である筋骨にあれば経金穴を取り、陰中の陽である六腑にあれば絡(下合穴)を取れとあります。
注目すべきは、「皮膚爲陽.」と、「病在陽之陽者.刺陽之合.」です。
病が陽中の陽である皮膚にあれば合土穴を取りなさいとのことですが、陽経の合土穴はそれぞれ、陽陵泉、小海、足三里、曲池、委中、天井です。
その使い方は如何に???
『難経』にヒントがありました。
難経
六十四難曰.
十變又言.
陰井木.陽井金.
陰滎火.陽滎水.
陰兪土.陽兪木.
陰經金.陽經火.
陰合水.陽合土.
陰陽皆不同.其意何也.
然.
是剛柔之事也.
陰井乙木.陽井庚金.
陽井庚.庚者乙之剛也.
陰井乙.乙者庚之柔也.
乙爲木.故言陰.井木也.
庚爲金.故言陽.井金也.
餘皆倣此.
肝と大腸、心と膀胱、脾と胆、肺と小腸、腎と胃は剛柔関係で夫婦関係ですよ、互いを助け合いますよとあります。
臨床的には、
- 庚(かのえ)陽金である大腸経は、乙(きのと)陰木である肝経を補強します。
- 壬(みずのえ)陽水である膀胱経は、丁(ひのと)陰火である心経・心包経を補強します。
- 甲(きのえ)陽木である胆経は、己(つちのと)陰土である脾経を補強します。
- 丙(ひのえ)陽火である小腸経は、辛(かのと)陰金である肺経を補強します。
- 戊(つちのえ)陽土である胃経は、癸(みずのと)陰水である腎経を補強します。
畏経関係にある相剋経の表裏経は逆に助けてくれるということです。
壽夭剛柔第六×六十四難
比較脉診ができない乳幼児~未就学児は、霊枢と難経の理論に従って対応するのもひとつの手です。
- 肝虚証は、肝経と大腸経を補う。曲泉を補った後、壽夭剛柔第六に従って曲池を補う、あるいは六十四難に従って商陽を補います。
- 心虚証は、心包経と膀胱経を補う。大陵を補った後、壽夭剛柔第六に従って委中を補う、あるいは六十四難に従って足通谷を補います。
- 脾虚証は、脾経と胆経を補う。太白を補った後、壽夭剛柔第六に従って陽陵泉を補う、あるいは六十四難に従って足臨泣を補います。
- 肺虚証は、肺経と小腸経を補う。太淵を補った後、壽夭剛柔第六に従って小海を補う、あるいは六十四難に従って陽谷を補います。
- 腎虚証は、腎経と胃経を補う。復溜を補った後、壽夭剛柔第六に従って足三里を補う、六十四難に従っても「陽合土.」とありますからどちらにしても足三里を補います。
なぜなら、小児はりは皮膚鍼がメインになります。
であれば、『霊枢』壽夭剛柔第六「病在陽之陽者.刺陽之合.」の範疇です。
小児の場合、お母さんからの問診で変動経絡の予測を立て本治法します。
主証は決めれても、細かい比較脉診ができず、虚実の判定ができないために、陰実なのか相剋調整なのか陽経の邪を取ればいいのか、主証を補った後の次の一手がわかりません。
そんなときは、『霊枢』壽夭剛柔第記されている「六病在陽之陽者.刺陽之合.」の治療法則や、あるいは『難経』六十四難に記されている「陰井木.陽井金.陰滎火.陽滎水.陰兪土.陽兪木.陰經金.陽經火.陰合水.陽合土.」の治療法則を試してください。
ただし、明らかに変動経絡が分かるときはそれに従ってください。
例えば、咳や喘息は左肝を補って右肺を瀉します。
便秘があれば脾を補って左の胃を瀉します。
発達障害なら脾腎相剋心肺要らずか腎虚脾実です。